KUMIKO UEDA playwright - director

report
Project PNEUMA

呼吸にまつわるトレーニングプール

インタビュー・レポート
2025 mai   Hibiya Art Parc

作品インタビューと参加者によるレポート

2025年5月、東京の日比谷公園にて開催されたHibiya Art Parc 2025 にて、市民参加型パフォーマンス『呼吸にまつわるトレーニングプール』の第2弾「皇居のお堀編」が行なわれた。

公募で集まった参加者は出演者と観客にわかれ、出演者は「人間ではない小さな生き物」となり、シェイクスピア『ハムレット』のオフィーリア溺死の場面を水中生物の視点から上演。観客は、散策者としてその姿をこっそり観察する──

このユニークな演劇的・ダンス的試みについて、演出家の上田久美子にインタヴューするとともに、参加者として体験したことをレポートする。

(インタビュー&レポート 竹内涼子)

上田久美子インタビュー

──今回のプロジェクトは『呼吸にまつわるトレーニングプール』の第2弾ということですが、そもそもこの企画が生まれたきっかけは?

きっかけはコロナ禍でした。2021年にコロナに感染して2週間ホテルで隔離されたとき、最初は牢獄のように感じたのですが、次第に「何かしなければ」とか「生産的でなければいけない」というプレッシャーから解放されるような気がしたんです。

ホテルでは貨幣に触れることがなく、今日どこへ行くか何を食べるか何を買うか、何も選択することができなかった。自分が最初からその中に生まれ落ちたために存在を意識していなかった貨幣経済社会から離れた結果、いかに自分が消費に駆り立てられていたかということに気づき、世界に対する違和感が強まりました。

隔離を終えて街に戻り、リハビリのつもりで六甲山に登ったとき、空や雲、海といった自然の姿が今までにないほど鮮烈に迫ってきた一方で、見慣れた都市の景色が異様に感じられた。
そこから「人間以外の存在の視点で世界を見てみたい」という思いが強くなりました。

──「人間以外の視点で世界を見る」ために、どのような試みをされたのでしょう?

最初に挑戦した『バイオーム』(2022年、東京建物Brillia Hall)では、植物の意識世界を書いたんですが、朗読劇ということもあって植物に人間の言葉を語らせることになり、人間中心主義から抜け出せていなかったように思います。

ちょうどその頃読んだ『植物の生の哲学』(勁草書房)という本に、あらゆる生命は「呼吸」という二酸化炭素の交換により大きなサーキュレーションを形成し、そこで境界なく混ざり合っている、ということが書かれていて、それが六甲山で受けた感覚と重なった。

それで、次の城崎国際アートセンターでの『呼吸にまつわるトレーニングプール』第1弾では、俳優やダンサーと一緒に「人間以外の存在になる」ためのリサーチを行ないました。そこでは〈環世界Umwelt〉に注目した。〈環世界〉とは、すべての動物はそれぞれに特有の知覚世界をもち、それにもとづいて行動しているという考え方です。
そうであれば、木になるには木を「真似る」のではなく、木のように周りを「感じとる」のがいいのではないか、ということで、参加者にはフェイスシールドや特殊な音を使って日頃の感覚を変化させ、呼吸の仕方を変えることで人間ではない存在を想像してもらいました。

──第2弾を日比谷公園でやることになった経緯は?

城崎でのレジデンスの後、自然の中で同じようなことができないかと思っていたときに、Hibiya Art Park 2025という日比谷公園でのアートプロジェクトがあるということで、パフォーミングアーツ部のディレクターだった武田知也さん(一般社団法人ベンチ)が声をかけてくれたんです。

都心のど真ん中にありながら緑に溢れ、同時に都市のノイズに包まれた日比谷公園は、身体を通じて「人間以外の知覚」を想像してもらうのにぴったりの場所だと感じました。

──日比谷公園でのバージョンはどのように作られていったのでしょう?

城崎は屋内だったので、参加者が受け取る情報は、映像や音響などテクノロジーを使った刺激でした。
でも、日比谷公園にはリアルな木々や土地の起伏、風や音といった情報があります。公園内を歩くとワークショップができそうなポイントが自ずと見つかり、まさに場の力、アフォーダンス(人間の主観ではなく環境が行動を決める)を感じました。公園そのものから促されて、演出家がやることが見えてくるというか。

園内をどれくらいの時間でどのように移動するかなど、ダンサーの川村美紀子さん、音響アーティストのmiuさんと一緒にツアーを組み立てていきました。
ツアー中に一般出演者にやってもらうワークショップでは、呼吸口を指先や背中に移し替えるイメージや、光を食べ物として取り込むイメージなどを使って、さらにミッドタウン日比谷の高層ビルを「巨大オフィーリア」に見立てるというちょっとバカバカしい趣向で、イマジネーションを広げました。

最終的には、皇居端の三笠山を観客席にし、斜面に広がる出演者の間を川村さん演じるオフィーリアが登場する構成に。
出演者は「自分たちの縮尺が小さくなった」という想像を共有し、自然界と古典演劇の一場面を一体化させることができたと思います。

──音響もユニークでした。

最初は、公園内の各所に大きなスピーカーを置いて出演者にナビゲーションをすることを考えたんですが、公園をあらかじめ「舞台」として加工することが嫌だったのと、一つの音源から大きな音を流すことが権威的に感じられたので却下になり。

出演者がそれぞれ小さなラジオを持ち歩いて音を運ぶ形にしました。そうすることで、ラジオからの指示も「やってもいいし、やらなくてもいい」という「提案」の形にできますし、集団から離れても音は聞こえるし、移動する集団がモワモワと音を発生させて場所を変容させていくのが面白い。

一方で、観客の人たちにも何か聞こえたほうがいいだろうということで、スマホからのストリーミングを併用しました。
ストリーミングでは、「散歩」の邪魔にならない朝のラジオのようなどうでもいい内容の偽ラジオ番組と、『ハムレット』のオフィーリアが溺れる場面の情景描写と現代音楽を組み合わせた音声を流しました。

結果的に、演じる側と観る側で異なる体験を生み出すことができたと思います。

──事前にこうしたものになることは想像されていたのでしょうか?

最初に具体的な道筋や結末を決めて創り始めることはしていません。

一般出演者にやってもらうことも「走るのか座ったままか」さえわからないまま始めて、公園に行ってみたら自然に形が生まれ、最終的にあのような表現になりました。


──早朝8時開始の回もありました。出社前に参加した人もいたようです。

近くに野外音楽堂があって午後になるとサウンドチェックが始まったり、正午の鐘が鳴ったりするので、それを避けるために朝8時というチャレンジングな時間帯になりました。
静寂を求めた結果ですが、たくさんの参加者が早起きして来てくれたのはありがたかったです。

──各回の終演後にはミニワークショップがありました。なぜそのような時間を設けたのでしょう?

普通の観劇でも、体験を言葉にせず感覚のまま持ち帰りたい人もいれば、誰かと共有したい人もいるでしょう。

今回、出演希望者の応募の際にはミニエッセイを書いてもらったのですが、読むとどれも創造的でとても面白く、必ずしも職業的アーティストだけが「表現者」なのではないと感じました。そうした皆さんの視点や経験を表現してもらう場を少しでも設けられたらと思い、終演後すぐに解散ではない形にしました。

──出演者には出演料が支払われました。ワークショップでは珍しいのでは?

公共の場で「人間以外の存在になる」ということは、ある種無防備な姿をさらすことですし、人に見られるということにはそれなりのリスクや覚悟がいる。
「出演する」ことのモチベーションになればという思いもありましたが、出演者に2000円という出演料を払うことで、そうしたリスクについての合意を形成したいという意味合いもありました。

──最後に今回のプロジェクトの感想をお聞かせください。

ふだん人に見られる経験が少ない一般の方でも、いざ観客に「見られる」状況になると「やるしかない」という使命感が生まれるのか、本番ではリハーサルとは全く違うパフォーマンスになっていたのが驚きでした!

よく「本番の舞台が役者を最も成長させる」といいますが、本当だったんだ…と(笑)。

観客についても、完全な集中と静寂が求められる劇場とは違って、子ども連れでもちょっと離脱して遊んでから戻ったり、なんなら一緒にバクテリアになってもいい、自由で開かれた形にできたのはよかったですね。通りすがりの外国人旅行者が一緒に踊り出したり。

最後の日には、観客とパフォーマー、公園の空間が一体となって巨大な生き物のように見えました。その光景はとても壮観で感動的でした。

プロジェクトが終わった後のアンケートでは、参加者の皆さんがそれぞれ独自の体験をしたことがわかり、今回の試みの広がりを感じることができました。

今後、地方などいろんな自然環境の中で、違う地域の住民の方たちともリクリエーションしてみたいです!お声がけお待ちしています!

日比谷公園は都立の公園ということもあって、さまざまな規制や制約があり、制作側も大変だったと思います。東京都公園協会の皆さんも、最初は戸惑いながらも次第にこの企画を面白く思ってくださり、積極的にサポートしてくださって。

参加した人たちから、日比谷公園ってこんな面白い場所だったんだ!という声がたくさんあって、それもよかったです。




演出/コンセプト:上田久美子
音:miu
動きのナビゲーション:川村美紀子

テクニカル・ディレクション:遠藤豊(LUFTZUG)
サウンドエンジニアリング/オペレーション:中原楽(KARABINER inc.)、荒井勇人(株式会社 大城音響事務所)
メインビジュアル:小池アイ子
コーディネート:一般社団法人bench
制作:佐藤瞳(bench)
協力:城崎国際アートセンター(豊岡市)、公益法人セゾン文化財団

Outside Eye:大崎晃伸

     

©︎Ryota Haraguchi